株式会社交通界様が発行する『週刊交通界21』にて、当協会が企画協力する新連載企画「新世代の横顔 ~日本縦断 採用のリアル~」がスタートしました。
第1回は、姫路タクシー株式会社の森田修平専務取締役にインタビュー。
10月26日発行の『週刊交通界21』(11月2日号) に掲載されます。
当協会サイトでは、誌面に収まりきらなかったお話も含め、前編・後編のロングインタビューとしてお届けします。
採用を強化し、観光を軸に多角化を進める。
姫路タクシーの成長戦略(後編)
介護職や大工、寿司職人、海外の商社マンなど、多様な経歴を持つ乗務員が働く姫路タクシー。一人ひとりの経験や得意なことに目を向け、新たな仕事の可能性を探っています。観光を事業の柱の一つと位置づけ、2026年には旅行会社「フィルトラベル」を設立。後編では、人を大切にしながら、地域に必要とされる会社を目指す同社の取り組みなどについて聞きました。
人材の広がりが、新しい事業の可能性を生む
── 一人ひとりを尊重する姿勢は、経験や得意なことを生かす面でも大切にされているのでしょうか?
そうですね。タクシー乗務員になることは、誰にとっても当たり前の選択ではないと思うんです。私自身、家業とのつながりがなければ、タクシーの仕事に就こうとは考えなかったかもしれません。異業種から転職し、新しい仕事に踏み出す方は、それだけ前向きで、エネルギーのある人たちだと感じています。
当社にも、介護職や大工、海外の商社など、さまざまな仕事を経験した人が入社しています。タクシー事業は、乗務員がいて初めてサービスを提供できる仕事です。一人ひとりの経験や得意なことに触れるたびに、「この人となら、こんなこともできるのではないか」と、新しい仕事の可能性が見えてくるんです。
例えば、介護職の経験者とは、これまでの仕事でどのような対応をしてきたのかを聞いています。その経験を生かし、介護・福祉タクシーという新たなサービスを立ち上げられないか、話し合っているところです。形になれば、近隣の介護施設にもご案内していきたいと考えています。
また、寿司職人の経験があり、副業でキッチンカーを運営している乗務員には、会社の敷地でも営業できないか、運営計画を考えてもらっています。私自身には飲食の経験がありませんが、彼の知識や経験を生かせば、一緒に取り組めるのではないかと思ったんです。
近所で働く人が気軽に立ち寄り、会話を楽しめるような、地域の交流の場にできたらと思っています。乗務員も、希望すれば仕事終わりにそこでアルバイトをして、ちょっとしたお小遣いを稼げる。そんな運営の仕方も含めて、構想を練っているところです。旅行の知識や海外での経験を持つ乗務員もいて、彼は新たに始めた旅行事業を支えてくれています。
──2026年には旅行会社を設立されました。その背景を教えてください。
お客さまの旅行全体を、一つの窓口でお引き受けできるようにしたかったからです。そうした思いから、2026年4月に旅行会社「フィルトラベル」を設立しました。お客さまとのお付き合いが深まるにつれ、「この地域でガイドをお願いできないか」「次の目的地での移動も手配してほしい」といった相談が増えてきました。
ただ、タクシー事業の許認可だけでは対応できない依頼もあり、それまでは、旅程についてアドバイスをしたり、現地の旅行会社などをご紹介したりするにとどまっていたんです。
お客さまからすれば、相談のたびに別の会社へ問い合わせるよりも、信頼できる相手に旅行全体のコーディネートを任せたいと思うはずです。そうしたご要望に応えるため、ガイドや交通手段の手配、日程の調整まで一貫して担える体制が必要だと考えました。
そこに重なったのが、「播磨の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」という社長の思いです。地域の歴史や文化に関心が深く、訪れた方にその魅力を楽しんでもらいたいと以前から話していました。お客さまの旅を支えたいという私の考えと、観光を通じて地域を盛り上げたいという社長の思いが、設立につながりました。
──設立によって、具体的に対応できる仕事はどう変わりましたか?
姫路を中心とした播磨エリアでの観光や送迎に加え、お客さまが次に訪れる地域での移動や観光の手配まで担えるようになりました。現在は、中国・四国エリアまでカバーしています。
例えば先日、海外の会社から旅行プランの相談を受けました。姫路城を見学し、その後四国を観光し、最後は倉敷へ向かう6泊7日の旅です。以前では姫路での観光や四国までの送迎。その先は現地の旅行会社をご紹介することしかできなかったのです。今は旅程全体を組み、各地のタクシーやガイドの手配、チケットの購入まで一括で対応できます。
この案件でも、先ほどお話しした乗務員が、お客さまと英語でやり取りしながら準備を進めてくれます。私が最初に相談を受け、その後の具体的な調整を任せるという分担です。当日の送迎やガイドだけでなく、ご希望を伺って日程表を作成し、お客さまへの確認まで担ってくれるので、心強いですね。
数字だけでは見えない、地域の移動を支える仕事の価値
──玲子社長から受け継いだ、経営で大切にしている考えを教えてください。
「地域に貢献すること」と「人を大切にすること」です。社長から、幼い頃から繰り返し言われてきました。ただ、その意味を実感するようになったのは、姫路タクシーに入ってからだと思います。
入社当初は、どうすれば売り上げや利益を伸ばせるか、一人ひとりの生産性を高められるかということに意識が向いていました。学校に関わる送迎の仕事も、そうした採算の面から見てしまったことがあります。そのとき、社長から「この仕事をしている以上、そういう仕事こそ大事にしなければいけない」と、厳しく言われました。
実際に送迎する中で、子どもたちの姿を見たり、地域の方々と接したりするうちに、少しずつ考えが変わりましたね。「この子たちの生活を支えなければいけない」と、自然に思うようになったんです。数字だけを見ていたときには見えていなかった、仕事の意味に気づかされました。
今は、地域の人の移動を支えること自体に、大きな価値があると感じています。新たに始めた旅行事業にも、地域の魅力をより多くの方に知ってもらい、姫路を盛り上げたいという思いがあります。利益を上げることはもちろん大切です。ただ、それだけでなく、誰のために、何のために仕事をするのかを考える。その姿勢を、社長の言葉と現場での経験から学んできました。
自社ならではの強みを見つけ、採用と事業づくりに生かす
──採用や事業づくりにおいて、他のタクシー会社でも生かせる考え方はありますか?
まずは、自社にどのような強みや特色があるかを、改めて見直してみることだと思います。乗務員の経験や人柄、会社の立地、社長自身の趣味など、会社ごとに何かあるはずです。普段は当たり前だと思っていることでも、外から見れば、その会社を選ぶ理由になる強みとして映ります。
例えば、筋力トレーニングが好きな知り合いの社長から、人が集まらないという話を聞いたことがあります。それなら、会社でプロテインを支給するなど、同じ趣味を持つ人が興味を持ってくれる職場にしてはどうかと話しました。実際にまだ導入にはいたっていませんが、社長の好きなことも、会社の特色を考えるきっかけになります。
当社の場合は、仕事に誇りを持ち、お客さまに丁寧に向き合う乗務員がいることでした。その乗務員を信頼できたからこそ、観光や法人向けの営業でも、自信を持って「当社に任せてください」と伝えられました。
それぞれが自社の特色を生かせば、お客さまにとっても、働く人にとっても、選択肢が増えます。「この会社なら働いてみたい」と感じるきっかけができれば、これまでタクシー業界に関心のなかった人にも、目を向けてもらえるのではないでしょうか。
子どもが憧れ、高齢者が頼れる。地域に必要とされ続ける会社へ
──今後どのような会社にしていきたいと考えていますか?
子どもたちから「将来、タクシーの運転手になりたい」という言葉が聞けるようになったらうれしいですね。バスや電車の運転士と同じように、タクシーも憧れの仕事の一つになってほしい。そのためにも、乗務員が誇りを持って働けて、頑張りが収入にもつながる会社にしていきたいと考えています。
兵庫県では、中学校の部活動が地域クラブ活動へ移行し、小・中学生が習い事に通う機会も増えています。子どもたちを送迎する場面が多くなり、以前よりタクシーを身近に感じてもらえるようになりました。日々の送迎を通じて、「運転手さんっていいな」と思ってもらえたらうれしいですね。
高齢のお客さまからは、「坂道を上がるのが難しくなった」「バス停まで歩けなくなった」という声も聞きます。以前は歩いて移動できていた方を、ご自宅の前からお送りすることも増えてきました。そうした変化に応え、地域の足であり続けることが、私たちの大切な役割だと思っています。
車両数や売上規模の拡大を、大きな目標に掲げているわけではありません。仕事を増やして乗務員に還元しながら、地域で必要とされる移動を支えていく。その積み重ねの先に、「この会社があってよかった」と思っていただける会社になりたいですね。
<前編はこちら>
採用を強化し、観光を軸に多角化を進める。姫路タクシーの成長戦略(前編)
取材・文/西谷 忠和
姫路タクシー株式会社様 公式サイト
https://himeji-taxi.co.jp/
