株式会社交通界様が発行する『週刊交通界21』にて、当協会が企画協力する新連載企画「新世代の横顔 ~日本縦断 採用のリアル~」がスタートしました。
第1回は、姫路タクシー株式会社の森田修平専務取締役にインタビュー。
10月26日発行の『週刊交通界21』(11月2日号) に掲載されます。
当協会サイトでは、誌面に収まりきらなかったお話も含め、前編・後編のロングインタビューとしてお届けします。
採用を強化し、観光を軸に多角化を進める。
姫路タクシーの成長戦略(前編)
タクシー会社が事業を成長させていくには、新しい仕事を生み出す視点と、ともに働く人が安心して力を発揮できる環境の両立が欠かせません。姫路タクシー専務取締役の森田修平氏は、社外での経験を生かしながら、自社の強みを見つめ直し、事業と組織づくりに取り組んできました。
事業の成長と採用・定着を、どのように結びつけているのか。
採用ライターの西谷忠和が取材しました。前編・後編の2回にわたってお届けします。
<プロフィール>
森田修平
姫路タクシー株式会社 専務取締役 兼 飾東交通有限会社 代表取締役社長
1998年生まれ。父の仕事に伴い、小学校時代をベルギーで過ごす。帰国後、淳心学院中学校・高等学校、岡山大学経済学部を経て、中国の電気自動車メーカーに入社。日本における乗用車事業の立ち上げに携わり、販売店の開拓や販売の仕組みづくりなどを経験した。その後、姫路タクシーへ。採用、事業計画、営業などを担い、乗務員の経験や強みを生かした事業展開に取り組む。
事業を成長させるには何が必要か。外の世界で得た学び
──まず、姫路タクシーに入るまでのご経歴を教えてください。
生まれは兵庫県姫路市です。父の仕事の関係で幼い頃に海外へ移り、小学6年生で帰国しました。その後、姫路にある私立の淳心学院中学校・高等学校を受験し、入学しました。
この学校を志望したきっかけは、当時の理事長との交流です。小学校時代を過ごしたベルギーのブリュッセルで、理事長もベルギー出身だと知りました。「自分が暮らすベルギーと地元の姫路に、こんなつながりがあるんだ」とうれしくなり、手紙をやり取りするようになったんです。交流を重ねるたびに、ここで学びたいという思いは強くなりました。帰国後に受験を経て、中学・高校の6年間を過ごします。
父の実家は医院を営んでいましたが、後継ぎがいませんでした。祖母からは「なれるのなら、医者になってほしい」と言われていたのです。その期待に応えたいという気持ちもあり、高校3年生までは医学部を目指して勉強を続けていました。
ただ、大学入試センター試験では思うような成績が取れなかったんです。浪人は考えていなかったため、その年に進学することを優先し、合格の可能性を踏まえて志望先を見直すことに。そうして進学したのが、岡山大学経済学部です。卒業後は、中国の自動車メーカーで約2年間働いた後、姫路タクシーに入りました。
──大学卒業後、すぐに家業に入らず、外の会社で経験を積もうと考えたのはなぜですか?
外の世界を見て、違う仕事や考え方を学びたかったからです。
いずれは家業で働こうという気持ちは、幼い頃からありました。日々の暮らしを支えてくれているのは、この会社と、ここで働く乗務員さんたちだと思っていたんです。だからこそ、いつかは自分も会社のために働き、恩返しをしたいと考えていました。
そのためにも、まずは他社で経験を積み、視野を広げておきたい。外で働く期間は3年ほどを想定していたので、限られた時間のなかでも多くを学べる、忙しくても成長できそうな環境を探していました。
──自動車メーカーでは、どのような業務を行っていたんですか?
日本での乗用車事業の立ち上げに携わり、販売網の構築と、それを支える流通・取引の仕組みづくりを担当していました。
入社時は社員が10人ほどで、新卒採用も初めての年でした。当時日本ではまだバスしか販売しておらず、私もその営業をするつもりだったんです。面接では、地元の信用金庫と一緒に催しを開くなど、人と人とのつながりを通じて信頼を築きながら営業したいと話していました。
ところが、入社後に任されたのは、乗用車について学ぶことでした。半年ほど経つと、日本でも乗用車を販売する方針が打ち出され、そのための体制を整えていくことになったのです。
実は、それまで車にほとんど関心がなく、知識もありませんでした。まずは日本で販売されている車のデータを見て、車種や価格、車幅などを覚え、それぞれの違いや特徴を理解するところから始めました。
販売網の構築では、自社の車を取り扱ってくれる販売会社(カーディーラー)を探すとともに、ケースによってはその会社が運営する販売店の出店候補地も提案しました。周辺の人口や購買層などの商圏分析を通じて、自社の車にどれくらいの需要が見込めるかを検討し、適した場所を選んでいたのです。並行して、車を何台輸入してどこに在庫を置くか、販売店にいくらで卸し、販売店の利益をどれくらいに設定するかといった仕組みも整えました。
上司や先輩には、他の自動車メーカーで経験を積んだ人が多く、それぞれが以前の職場の仕組みを持ち寄り、自社に合う形にアレンジしていたのです。私は、その方針をもとに具体的なルールを整えるなど、実務を担っていました。
──ここで学んだのは、どんなことですか?
事業を成長させるために、状況を見て素早く判断し、実行に移すことの大切さです。競争の激しい環境だったので、他社の動きを調べ、自分たちならどうするかを常に考えていました。
一度決めた方針でも、状況が変われば見直す。機会があれば、必要な資金を投じて一気に進める。その判断と行動の速さは、特に印象に残っています。私の部署も、入社時は2人ほどでしたが、私が辞める頃には10人ほどになっていました。事業と組織が成長していく勢いを、間近で感じましたね。
また、特定の誰か一人に依存せず、組織として仕事を進められる体制についても考えるようになりました。一人ひとりが自分の役割を担いながら、人が入れ替わっても事業を動かし続ける。そうした合理的な組織運営が、成長の速さを支える一つの要素なのだと感じました。
自社に取り入れるには、それぞれの会社に合った形を考える必要があります。ただ、異なる考え方に触れたことで、経営に対する視野は確実に広がりました。この経験は、姫路タクシーでの仕事にも生きています。
自社の強みを活かし、新たな仕事をつくる
──姫路タクシーに入社後は、どのような業務から着手したのでしょうか?
まず、今後3年間の事業計画を立て、売り上げの目標や車両を入れ替える時期、導入する車種などを整理しました。母である社長とは、以前から会社の方針についてよく話していました。特に聞いていたのが、「観光に力を入れたい」「頑張る人がしっかり評価される会社にしたい」ということです。私は、その考えを具現化しようと動き始めました。
収益を伸ばすには、乗務員を増やすだけでなく、一人当たりの売り上げを高めることも必要です。しかし、乗務員に頑張ってもらうだけでは限界があります。会社がより高い収益を見込める仕事を獲得し、その成果を給与として還元する。それが乗務員の収入面での安心につながれば、目の前のお客さまへの対応にも専念でき、サービスの向上につながると考えました。
そこで改めて、自社の強みは何か、どのようなサービスなら選んでいただけるかを考えたんです。強みとして行き着いたのは、乗務員の質の高さでした。姫路タクシーとグループ会社の飾東交通には、会社の一員であることに誇りを持ち、お客さまにきちんと向き合う乗務員がいます。その力を生かせる事業として注力したのが、ハイヤーによる訪日外国人向けの観光サービスでした。
──そのサービスを、どのように広げていったのですか?
約25社の訪日旅行会社に、「グリーン車よりも快適な移動を提供します」と、ハイヤーを利用した観光や送迎を提案しました。観光シーズンには駅や列車が混み合いますが、ハイヤーなら乗り換えの負担を減らし、ホテルや目的地まで直接お送りできます。移動中もゆったり過ごしていただけることをお伝えしてきました。
その言葉に見合うよう、車内には飲み物やおしぼりを用意。冬にはブランケットも備えています。車両の清潔さや乗務員の丁寧な対応とともに、車内での過ごしやすさにも気を配っています。
また、利用が少なかった夜間にも需要を広げようと、企業が取引先との会食後に行う送迎に着目。お招きした方へのおもてなしの一環として、ハイヤーの利用をご案内したところ、継続的に利用してくださる企業も出てきました。こうした営業活動を重ねるなかで、遠方への送迎や観光の依頼も増えてきています。
人柄を知り、不安に答える。対話を大切にした採用活動
──事業を広げる一方で、採用にはどのように取り組んだのでしょうか?
乗務員を増やしたいという考えは、入社当初からありました。ただ、採用に本格的に力を入れるようになったのは、入社から1年ほど経ってからです。それまでも、ご縁があって入社してくれる人はいましたが、営業活動を進めて仕事が増えるにつれ、乗務員の確保が課題になってきたのです。
そこで、乗務員を採用するにはどうすればよいか、交通界の鈴木さんに相談しました。その際、採用支援の実績のある求人広告ライター協会をご紹介いただき、どのような支援を受けられるのか、話を聞くことになったんです。
ただ、依頼を決めるまでには迷いもありました。私はもともと慎重な性格で、費用をかける際には、うまくいかなかったリスクのことも考えます。例えば、車なら、使わなくなっても売却して資金の一部を回収できます。一方、採用支援は形のないサービスで、期待する成果が得られるかは、実際に取り組んでみなければわかりません。その不確かさに踏み込むことは、私にとって新しい挑戦でした。
それでも一歩を踏み出せたのは、何度か電話で話すなかで、気負わずに相談できたからでした。「やってみましょう」と率直に話してくださり、こちらも不安を伝えやすかったんです。そのやり取りを重ねるうちに、任せてみようと思えてきました。
2025年8月から支援を受け始め、それ以降、採用は順調に進んでいます。少しずつではありますが、新しい仲間が継続的に加わるようになりました。人数の面だけでなく、良い人材に恵まれていることも実感しています。採用と営業の両面に取り組んできた成果が、ようやく形になってきたと感じます。
──採用では、どのような人材を求めているのでしょうか?
周りの人と気持ちよく働ける人ですね。自分の売り上げだけに目を向けるのではなく、周囲にも気を配り、必要なときには助け合える。面接では、そうした考え方や人柄を、会話を通じて知るようにしています。
入社後も、売り上げだけで判断することはありません。お客さまへの丁寧な対応や、仲間を支える行動など、数字には表れにくい貢献もあります。そうした日々の仕事への向き合い方や、一人ひとりの持ち味も含めて評価しています。
──応募者と面接で話す際には、どのようなことを大切にしていますか?
気になることを遠慮なく聞いてもらえる雰囲気づくりです。まずは「来てくださってありがとうございます」と感謝を伝え、普段の会話と同じように話しています。そのうえで、「わからないことは何でも聞いてください。全部お答えします」と必ず伝えます。
質問は、「給与はどのように決まるのですか」「事故を起こした場合、費用は誰が負担するのですか」といったものから、「仕事は自分で探してこなければいけないのですか」というものまで、さまざまです。私たちには当たり前でも、初めてこの業界で働く方にはわかりません。こちらの常識を前提にせず、一つずつ説明しています。
また、その場では質問が思いつかなくても、帰宅してから気になることが出てくる場合もあります。ご家族と相談するなかで生まれた疑問も含め、後から電話やメールで聞いてもらえるようにしています。
以前、入社後に「思っていたのと違う」という話になり、説明が足りなかったと反省した経験がありました。それ以来、入社前に認識のずれがないかを、より丁寧に確認するようになりました。
──反対に、森田さんから応募者に確認していることはありますか?
現在の収入額に加え、生活のために必要な金額も必ず伺っています。一人ひとり事情が違いますから、転職によって生活に支障が出ないか、確認しておきたいからです。
例えば、「月40万円を目指したい」という方には、最初からその金額を得るのは難しいと率直にお伝えしています。タクシーの仕事は、経験や知識の積み重ねが売り上げにつながります。入社直後と、仕事に慣れてからでは、収入にも違いが出ます。
ただ、「すぐには難しい」ということと、「将来も目指せない」ということは別です。経験を積むことで収入を伸ばせる可能性はお伝えしますが、「何カ月後には必ずこれだけ稼げます」といった約束はしません。
大切なのは、将来目標にしたい金額と、今の生活に必要な金額を分けて考えることです。期待だけで入社を決めてもらうのではなく、収入の見通しをできるだけ共有したうえで、納得して働き始めていただきたいと思っています。
意欲に応え、安心して働き続けられる環境へ
──少し前から女性ドライバーも入社されたと伺いました。迎えるにあたり、どのように考えていましたか?
実は、当初は慎重でした。夜間の乗務や、さまざまなお客さまへの対応もある仕事ですから、自分から積極的に勧めてよいのかという迷いがあったんです。
私は、本人が望まない働き方を無理にさせたくないと考えています。例えば、夜の歓楽街に仕事があっても、そこでの営業を強いることはありません。採用の際にも、仕事の難しさまで理解してもらい、入社後に「想像していたのと違う」とならないようにしたいと思っていました。
一つのきっかけになったのが、22歳の女性との面接です。男性や年上の乗務員が多い職場であることや、接客で難しい場面もあることを伝えました。それでも本人は「大丈夫です」と、チャレンジしたい意思を示してくれたんです。その熱意を受け止め、一緒にやってみようと、正社員として採用しました。
その後、40代の方も入社し、現在は2人の女性が働いています。こちらの方は、以前は別のタクシー会社で事務をしていて、免許は持っていましたが、乗務は当社で初めて経験しました。先日も、芸人の方の送迎を終えた後に、「とても良い経験になりました」と連絡をくれました。新しい仕事を前向きに楽しんでくれている様子が伝わり、うれしかったですね。
お客さまからも、産婦人科への送迎などで女性ドライバーを希望されることがあります。そうしたご要望に応えられるようになり、安心して利用していただける場面も増えたと感じています。
とはいっても、心配がすべてなくなったわけではありませんが、2人とも採用してよかったと思っています。本人たちが意欲を持って働き、お客さまにも喜んでいただいている。その姿を見て、私自身も女性ドライバーの活躍を具体的に実感するようになりました。
──入社後の育成では、どのようなことを大切にしていますか?
基本を身につけたうえで、実際の乗務を通じて対応力を養ってもらうことです。そのために、独り立ちした後も、困ったときには周囲に相談できるようにしています。
以前は同乗指導の回数を重ねたこともありましたが、それだけで本人の不安がなくなるわけではありませんでした。お客さまも行き先も、そのときの状況も毎回違います。すべての場面を事前に練習することは難しく、実際に対応するなかで身につくことも多いんです。
そこで、接客のマナーやメーター・車両の操作、当社のお客さま対応のルールなどを学び、基本的な同乗指導をある程度経た後は、一人での乗務に進んでもらっています。わからないことがあれば、その都度、無線で確認する。一つずつ対応できることを増やし、自信をつけていけるように支えています。
──安心して働き続けてもらうために、働く環境では何を重視していますか?
本人が大切にしている生活や時間を尊重することです。休みについても希望通りに取ってもらっています。
みんな、何かのために働いていると思うんです。子どもや家族のためかもしれませんし、自分の趣味のためかもしれません。その大切なものを犠牲にしてまで働くようになったら、仕事を続けること自体がつらくなってしまいます。長く働いてもらうためにも、仕事と生活を両立できることが大事だと思うんです。
仕事をする目的は一人ひとり違いますから、会社の都合だけを優先するのではなく、それぞれの希望に合わせて働けるようにしたいと考えています。
後編では、観光事業を例に、乗務員の経験を生かして新たな仕事を生み出し、地域に必要とされる会社を目指す同社の取り組みを紹介します。
<後編はこちら>
採用を強化し、観光を軸に多角化を進める。姫路タクシーの成長戦略(後編)
取材・文/西谷 忠和
姫路タクシー株式会社様 公式サイト
https://himeji-taxi.co.jp/
